EU改革停滞の恐れ 欧州議会選、懐疑派3割届く勢い
【ブリュッセル=竹内康雄】23~26日に実施される欧州議会選まで1週間を切った。議席(定数751)の予測によると、欧州連合(EU)を支持する二大会派が議席を減らす一方、極右などのEU懐疑派が3分の1をうかがう。結果はEUのトップ人事につながるため、懐疑派の勢力が強まればEU改革が進まなくなる恐れもある。
欧州議会が4月公表した議席獲得予測によると、実質的に大連立を組む欧州人民党(EPP、中道右派)と欧州社会・進歩連盟(S&D、中道左派)はそれぞれ第1会派、第2会派の座を守るものの、過半数を割り込む。他の親EUの中道会派を合わせれば過半数は確保できるが、安定した議会運営体制をつくれるかどうかが焦点だ。
現状で約25%のEU懐疑派(穏健派含む)は3分の1に届く勢いで、一定の勢力になりそうだ。極右から極左まであるため一枚岩ではないが、親EU派の足並みが乱れれば重要法案や人事の決定権を握ることもありうる。フランスのマクロン大統領らが掲げるユーロ圏共通予算や欧州軍創設など、統合深化策に懐疑派が反対するのは確実だ。
「自由な欧州かイスラム国家になるのかを決める市民投票だ」。12日、イタリア北部の港町で極右「同盟」のサルビーニ党首は訴えた。伊連立政権の一角を担う同盟は欧州の極右の代表格。同盟は移民を乗せた救助船の入港を拒否するなど、強硬な反移民政策を打ち出す。フランスではルペン党首率いる国民連合が、議会選でマクロン氏が率いる政党とトップを争う。スペインでは4月下旬の総選挙で下院に初進出した極右「ボックス」が勢いを増す。
EU懐疑派は欧州債務危機後の格差拡大の不満を受けて台頭した。欧州に難民が大量に流入すると、EUの移民政策や国境管理などの安保政策を批判し、支持を拡大した。「懐疑派がどれだけ勢力を伸ばすかが、有権者のEUとの距離をはかる物差しになる」(EU筋)との見方もある。
欧州議会は15日、公開討論会を開き、経済や気候変動などのテーマを議論した。討論にのぞんだのは6人。多くは次期欧州委員長の候補となる各会派の「筆頭候補」だ。極右などEUに懐疑的な会派は参加しなかった。
S&Dのティメルマンス欧州委員会第1副委員長(オランダ出身)は「緊縮財政で雇用や経済が傷ついた」と中間層の底上げが必要と指摘。巨大IT(情報技術)企業が十分に納税する仕組みをつくると主張した。
EUのユーロバロメーターによる4月下旬の調査では有権者の最も関心が高い分野は「経済と成長」で「若者の雇用」が続いた。「移民」や「テロとの戦い」も高い順位にあるが、前回18年秋の調査と比べると関心は低い。足元で移民流入やテロ発生が少なくなったことが影響したようだ。
大きく伸びたのは「気候変動・環境」だ。欧州各地でも温暖化対策を訴えるデモが頻発する。EPPのウェーバー欧州議員(独出身)は50年の温暖化ガス排出を実質ゼロにするとした上で「技術革新を信じている」と述べ、産業界に配慮して炭素税導入には慎重姿勢を示した。