李強氏、経済手腕は未知数 中国首相候補
【北京=川手伊織、羽田野主】中国共産党序列2位の李強(リー・チャン)氏が、2023年3月の首相就任に向けて急ピッチで準備を進める。近く副首相に就くとみられる。「ハイテク研究に熱心」との評価がある一方、中央政府での勤務経験がない。マクロ経済運営の手腕は未知数だ。
李強氏は上海市に近い浙江省生まれ。地元の農業大学の分校で学んだ。浙江省政府で農民の救済事業などを担当し、浙江省温州市のトップに就いた。
転機は2002年に浙江省トップとして赴任した習近平(シー・ジンピン)総書記(国家主席)との出会いだ。党委員会の秘書長として支え、信頼を得るようになった。習氏が党トップに就いてから江蘇省や上海市のトップを任され、今年10月に最高指導部である政治局常務委員のメンバーに選ばれた。
「口数が少なく、だれに対しても腰が低い」。李氏を知る共産党員はこう語る。
上海市トップとして今春、新型コロナウイルス対応のロックダウン(都市封鎖)に踏み切った。短期間のはずだった封鎖が2カ月に及んだ不手際は国民の反発を呼んだ。インターネット上では封鎖中の視察先で住民の抗議を受ける動画も拡散された。
都市封鎖で猛烈な批判を浴びた李氏だが、別の党員は「米テスラを上海に誘致できたのは紛れもなく李氏の手柄だ」と弁護する。李氏が地元当局にテスラの税制優遇や安価な土地の貸与などを指示したのが決め手になった。ハイテク分野の研究に余念がないとの指摘もある。
スピード出世を遂げた李氏だが、中央政府である国務院での勤務経験はない。現首相の李克強(リー・クォーチャン)氏や前首相の温家宝氏は、5年の副首相経験を経て首相に就いた。
副首相経験者を首相候補への登竜門と位置づけてきたのは、それだけ首相の所掌範囲が多岐にわたり、重責であることを物語っている。李氏は首相登板まで準備期間が5カ月足らずしかなく、今から副首相に就いても経験をどこまで積みあげられるのか不安を残す。
中国経済は、新型コロナの感染封じ込めを狙う「ゼロコロナ」政策で停滞局面が長引いている。バブルを抑え込むための規制強化が住宅不況を招き、不動産経済からの脱却も見通せていない。
地方では急速な少子高齢化や人口流出で経済が疲弊している。農村系金融機関の破綻など金融不安のマグマもたまっている。輸入資源などの価格を押し上げる人民元安も歯止めがかかっていない。
首相就任後は習氏の意向をくみ取って、格差縮小をめざす「共同富裕(共に豊かになる)」政策の具体化などに着手するとみられる。山積する課題への対応も待ったなしだが、危機対応への不安はくすぶる。
3期目となる新たな習近平(シー・ジンピン)指導部が発足しました。習政権では習氏に近いとされる「習派」は最高指導部を指す政治局常務委員で7人中6人を占め、序列24位以内の政治局員でも約7割が該当するとみられます。権力の一極集中を進める習政権の最新ニュースや解説をまとめました。
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