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残虐!拷問デス・メタル・バンド、ブロデキンが20年ぶりのニュー・アルバムで復活

山崎智之音楽ライター
Brodequin / courtesy of Brodequin

21世紀初頭のエクストリーム・メタル界に阿鼻叫喚の地獄絵図をもたらしたブロデキン(Brodequin)が2024年3月にニュー・アルバム『Harbinger Of Woe』を発表する。

テネシー州ノックスヴィルでジェイミー(ベース、ヴォーカル)とマイク(ギター)のベイリー兄弟によって結成。轟音リフと狂速ビート、地獄から噴き出すグラウル・ヴォイス、中世ヨーロッパの拷問や刑罰を描いた暴虐と気品を兼ね備えた世界観によって絶大な支持を得る。『Instruments Of Torture』(2000)『Festival Of Death』(2001)『Methods Of Execution』(2004)はいずれもアンダーグラウンド・クラシックスとして神格化される激盤だ。

バンドはその後活動を休止するが、世界中のエクストリーム・メタル・ファンは彼らの復活を待ちわびていた。そして2015年10月の復活宣言とライヴ再開を経てEP『Perpetuation Of Suffering』(2021)をリリース。『Harbinger Of Woe』はなんと20年ぶりのフル・アルバムだ。

往年の殺傷力はそのまま、曲構成の完成度を高めて音質もアップさせた新生ブロデキン。新加入のブレナン・シャッケルフォードもバンドの屋台骨を担うに相応しい爆裂ドラミングを披露する。

蘇ったブロデキンの3人が日本のファンに向けて激白した。

Brodequin『Harbinger Of Woe』ジャケット(Seasons Of Mist /2024年3月22日海外発売)
Brodequin『Harbinger Of Woe』ジャケット(Seasons Of Mist /2024年3月22日海外発売)

<俺たちにとって最も大事なのは音楽なんだ。プロダクションは2番目>

●『Harbinger Of Woe』ではどんな音楽性を志しましたか?

ジェイミー:一言で言うなら“異なった”アルバムにしたかった。ブロデキンが過去3作でやってきたエクストリームなスタイルを貫きながら、曲の構成やプロダクションにさらなるこだわりを加えているんだ。

マイク:ノンストップのスピードで突っ走るのも俺たちの武器だけど、さまざまな要素も加えることで起伏のあるアルバムにしたかった。すごくうまく行ったと思う。

●2021年にEP『Perpetuation Of Suffering』を出して、さらに3年を経て『Harbinger Of War』で帰ってきたわけですが、それまで何が起こっていたのですか?

マイク:『Methods Of Execution』を出してから、とにかく人生、いろんなことをしていたんだ。バンドとして次にどう進むか?と話し合ううちに家族や仕事のことで忙しくなって、ミーティングも途絶えがちだった。そうして気付かないうちに時間が流れてしまったんだ。決して“解散”とか“活動休止”とか、改まった話ではなかった。

ジェイミー:もしあの時期に無理してアルバムを作っていたら、俺たちの最高傑作とはなり得なかっただろう。ジョン(エングマン)はバンドを辞めていて、新しいドラマーを探す必要があったしね。

●作品を発表していなかったあいだ、ライヴは行っていましたか?

ジェイミー:いや、やっていなかった。音楽に対する情熱を失ったわけではなかったけど、全員いろいろやることがあったんだ。他のバンドを少しやっても、長期的なものではなかった。でもブロデキンのことを覚えていてくれる人達がいて、2016年から2017年にかけてツアーをしたんだ。“メリーランド・デスフェスト”にも出て、熱い反応があったよ。

●EP『Perpetuation Of Suffering』をリリースした後、本格的に活動を再開したのですか?

ジェイミー:ボールが転がり始めたのは確かだね。EPを出したことでブロデキンが生きていることを知ったファンやプロモーターがいて、声をかけてくれるようになったんだ。

ブレナン:去年(2023年)11月にはヒューストンのクラブ“ザ・コンパウンド”でショーをやったし、バンドの昔を知っているオールドスクールなファンも最近聴くようになったファンも楽しんでくれているよ。

『Perpetuation Of Suffering』リリースの段階でアルバムの曲はどの程度揃っていたのですか?その後に書いたものですか?

マイク:アルバムの曲はその時点ですべて仕上がっていた。EPはその中から「VII Nails」「Tenaillement」の2曲をピックアップしたんだ。どちらもアルバム用に再レコーディングしたし、異なった仕上がりになっているよ。

●アルバムの曲はいつ頃書いたのですか?

マイク:2018年ぐらいにアイディアを書き始めたけど、翌年に別バンドのリタジーを復活させて“ラスヴェガス・デスフェスト”に出演したりで忙しくて、しばらく放置していた。リタジー用に7曲ぐらい書いたところでブロデキンに戻ったんだ。作業は速かった。ジェイミーと俺は既にいくつか曲を書いていたし、「Fall Of The Leaf」は元々リタジー用に書いたけどブロデキン向きだと思って流用した。2020年1月にはラフなデモが完成していたんだ。俺の家の地下室で録ったもので、ドラム・マシンやサンプルを使っていた。それから曲を完成させていったんだ。ブレナンが加入したことで、彼のアイディアを加えていったし、それに伴ってリフに手を入れたりもした。彼のドラムスが最高なんで、ギターもそれに見合ったものにしたかったんだ。デモ・ヴァージョンと較べると、格段に洗練されているのが判るよ。

(注:ベイリー兄弟と元ディスゴージのヴォーカリスト、マッティ・ウェイによるリタジー<ニューヨーク出身のブラック・メタル・バンドとは別物>は既にニュー・アルバム用のギター、ベース、ドラムスをレコーディング済。近日ヴォーカルを入れて完成とのこと。『Dawn Of Ash』(2004)以来20年ぶりの新作となる)

●初期3作と新作では曲作りの作業は異なりましたか?

ブレナン:最大の違いは、リモートで作業したことだな。ファイル共有をしたりね。

マイク:全員がひとつの部屋でプレイするときのアドレナリンには代え難いものがあるけど、リモートの方がじっくり作業出来るという利点がある。アイディアが浮かんだら地下室に下りていってすぐ録音出来るしね。昔だったら全員でスタジオに入るまで録ることが出来なくて、せっかくのアイディアをそれまでに忘れてしまうこともあったんだ。かつては週3回ぐらい集まっていた。今ではいつでもアイディアをコンピュータに記録出来る。うちのコンピュータにはさまざまなリフやアレンジが保存されているよ。まあ、ほとんどは使わずに終わることになるけどね。

●ブロデキンの初期作品が棍棒で繰り返し殴りつけるとしたら、『Harbinger Of Woe』は鋭い刃物で斬りつけるようです。先行公開された新曲「Of Pillars And Trees」はシャープなエッジのある新しいサウンドが高評価を得た一方で、混沌とした初期の音質を懐かしむ声もありました。

ブレナン:俺たちにとって最も大事なのは音楽なんだ。プロダクションは2番目だよ。

マイク:「Of Pillars And Trees」を聴いた人からのコメントで「ブロデキンは売れ線に走った」というものがあった。4分の曲のうち3分半はブルータルなバイオレンスの地獄で、残り30秒がメロディックなパートという曲を“売れ線”って何だよ?...と思ったね(苦笑)。結局、周囲の声は気にせず自分の信じる音楽をやるしかないんだ。

ジェイミー:俺たちの初期のアルバムについては誤解もあるんだ。『Instruments Of Torture』のサウンドは、決して狙ったものではなかった。ああいう音質でしかレコーディング出来なかったんだ。リビングルームでヴォーカルを録音して、誰かが冷蔵庫からビールを取り出す音が入ってストップしたりしたからね。

マイク:アルバムの音質には満足していなかったし、当時「音が悪くて聴いていられない」と酷評されたんだ。それが20年後になって再評価されるんだから驚きだよ。

ジェイミー:当時は「ジャケットが白黒だからブルータルじゃない」とか、言いがかりに近い批判まで浴びたんだ。まあ要するに俺が言いたいのは「音楽を聴いてくれ」ということだよ。

Jamie Bailey / photo by Israel Mendoza
Jamie Bailey / photo by Israel Mendoza

<ヴォーカルはひとつの楽器なんだ>

●20年ぶりのアルバムということで、初めてブロデキンを聴くリスナーも多いと思います。バンドの音楽性を日本の若いデス・メタル・ファンにどのように説明しますか?

マイク:ダークでブルータルなデス・メタルだ。少しばかりのメロディもある。決してブラック・メタルではないけれど、その要素も取り入れているよ。ディスゴージのようなタイプのバンドが好きならば、きっとブロデキンも気に入るんじゃないかな。

●バンドはテネシー州ノックスヴィルで結成されましたが、現在の活動拠点はどこですか?

ジェイミー:ずっとノックスヴィルだよ。活動休止中はシーンとほとんど関わりを持たなかったけど、戻ってきたとき思ったほど変わっていなくて驚いたね。20年ぶりに話す人もいたけど、先週末ぐらいに話したっけ?と錯覚するほどだった。それにみんな俺たちのことを温かく迎えてくれたよ。

ブレナン:俺はダラス在住だけど、リハーサルや新曲作りのときはノックスヴィルに来るようにしている。

●ホワイトチャペルもノックスヴィルの同郷ですよね?彼らも欧州文化の薫りを漂わせながら実は陰惨なネーミング(ホワイトチャペルはロンドン東部の地区で、1888年に切り裂きジャックが連続殺人を行ったことで有名)という点でブロデキンと共通していますが、面識はありますか?

ジェイミー:彼らとは一度も会ったことがないんだ。曲もあまり知らないけど、クールなバンド名だよね。

●いつも『〜 Of 〜』というアルバム・タイトルを付けているのは意識したものですか?

ジェイミー:最初の3作では意識していなかったんだ。アルバム・タイトルがすべて『〜 Of 〜』というのは偶然だった。その後、友達にその連続性を指摘されて気付いたんだ。“〜 Of 〜”というのは英語ではありふれた表現だし、『Harbinger Of Woe』がクールなタイトルだと思ったから、そう名付けることにしたんだ。

●歌詞カードと実際に歌っている内容が異なるようにも聞こえるのですが...。

ジェイミー:まあ、曲の音節に合わせて歌詞を一部変えることはあるね。あと、グラウル・ヴォイスで歌っていることで、歌詞を聴き取りづらいこともあるだろう。でも基本的に歌っているのは歌詞カードと同じ内容だよ。

●ブロデキンの歌詞には詩的表現や歴史的な事実もあって、ただリスニングするだけでは判らない情報量が内包されていることが閉所恐怖症的なテンションを生み出しています。

マイク:ヴォーカルはひとつの楽器なんだ。だから音楽をより効果的にすることが最優先事項であって、ハッキリと一言一言歌詞を聴き取れる必要はないと考えている。でも歌詞を読んで理解を深めてくれるのは嬉しいよ。

Mike Bailey / photo by Israel Mendoza
Mike Bailey / photo by Israel Mendoza

<フランス語の発音はほとんど詩的な響きがあって、その内容の陰惨さを覆い隠している>

●バンド名Brodequinの正確な発音は?

ジェイミー:実は諸説あるんだ(笑)。俺たちはマネキンmannequinみたくブロデキン(Brを強調)と言っているけど、元々外来語だからね。フランス語っぽくブロドカンと発音するのが正しいのかも知れない。でも俺たちがアメリカン・イングリッシュで「やあ、俺たちはブロドカンだ」と言ったら、みんな「...ハァ?」となるだろう。だからブロデキンで通しているんだ。

●Brodequinというバンド名は中世ヨーロッパの拷問器具から取ったそうですが、拷問に対する関心はどのようにして生まれたのですか?

ジェイミー:Brodequinは罪人の両脚を板で挟んで、締め付けたり捻ったりする拷問器具だ。俺たちはガキの頃から世界史に興味があったんだ。まあ、罪がない趣味だった。で、ある日マイクと俺で本屋に入ったんだ。世界史コーナーに行ったら、中世の拷問に関する本が何冊かあった。それですっかりハマったんだ。これまでロックやメタルで中世の拷問を題材にしたバンドもいたけど、あくまで味付けであって、深く掘り下げたことはなかった。それをブロデキンでやろうとしたんだ。それが俺たちのアイデンティティになった。現代は、ローマ帝国や古代ペルシアと比較してもさまざまな残虐行為がはびこる時代だ。その対比として、俺たちの音楽を通じて、過去の歴史に焦点を当てようと考えたんだ。

●“拷問”を題材にするにしても「お前の腹をかっさばいて内臓を引っ張り出してやる」というのではなく、16〜17世紀ヨーロッパの出来事を描いたりして、ただブルータルなだけでなく、文化的な側面も捉えているのがブロデキンの個性だと思います。

ジェイミー:うん、バンドのロゴやジャケット・アートもそうだし、古典に根差したアプローチを取っている。もちろん他のバンドを貶しているわけではなく、単にトラディショナルなデス・メタルとは異なったことをしているんだ。

●Brodequinというバンド名や「Tenaillement」はフランス語、強制的に大量の水を飲ませる「Verdrinken」はオランダ語、イギリスで長く絞首刑が行われてきた「Tyburn Tree」、デンマークで“怒りの日”を意味する「Vredens Dag」など、曲タイトルにさまざまな言語が用いられているのも興味深いですね。

ジェイミー:俺たちアメリカ人はさまざまな民族の坩堝だ。フランス、ドイツ、アイルランド、それからもちろんアフリカや日本もね。それぞれの文化や風習について、俺たちの視点から言及したかった。その中でもフランスの拷問については文献が多いせいか、題材にする機会がやや多めのように感じる。決して意図的ではないけどね。「Tenaillement」はペンチを使って肉をむしり取る拷問なんだ。俺の発音は自己流で酷いものだけど、本来のフランス語の発音はほとんど詩的な響きがあって、その内容の陰惨さを覆い隠している。そのコントラストが魅力なんだ。それに「Gilles De Rais」で描いた百年戦争のジル・ド・レやフランス革命など、フランスの歴史には引き込まれる要素があるよね。

●あなた達の知っている中で最も苦痛が激しく陰惨な拷問・刑罰の方法は何でしょうか?

マイク:バンドで一番歴史に詳しいのはジェイミーなんだ。俺が知っているのはBrazen Bull(真鍮の雄牛=ファラリスの雄牛)かな。古代ギリシャで、真鍮の雄牛の腹部に罪人を閉じ込めて、下から火で炙る処刑方法だよ。

ジェイミー:古い資料に残っているだけで、実際に使われたかは定かでないんだけどね。“鋼鉄の処女=ニュールンベルクの処女”も有名だけど、あれも実用されたのかは判らない。ヴァイキングの“血の鷲”は、捕虜の背中を切開して肋骨を引っ張り出すと翼のように見えるというものだけど、これも実行されたか不明だ。ただ、中世ヨーロッパの車裂きの刑は車輪の現物や処刑された人たちの墓が存在するから、おそらく事実だと思われる。...苦痛を伴いそうなのは“青銅のボウル”かな。罪人を寝かせて、お腹の上にネズミを乗せてから青銅のボウルを被せて、火で炙るんだ。するとネズミが熱から逃れようと、罪人のお腹を食い破って中に入っていこうとする。この刑は「Bronze Bowl」という曲でレコーディングしているよ。もちろん俺たちは歴史家ではなくメタルバンドだから、すべてが100%正確である必要はない。過剰な脚色はしないようにしているけどね。

●まだ曲にしていない拷問や刑罰のストックはたくさんありますか?

ジェイミー:うん、まだ表面をかすっただけだよ。新作の「Suffocation In Ash」はペルシアを舞台にしているけど、まだ世界各地の刑罰を描きたいと考えている。今書いている曲もペルシアを舞台にしているんだ。

●日本の刑罰や拷問については調べていますか?

ジェイミー:足を竹の棒で叩く、西洋のバスティナードに似た刑は知っている。それと罪人をタケノコの上に座らせて、毎日少しずつ伸びるから身体を貫かれるというものも読んだことがあるよ。

●日本ではキリシタンに蓑を着せて火をつける“蓑踊り”、四頭の牛が四肢を別々の方向に引っ張る“牛裂きの刑”、三角形の木材を並べた上に罪人を正座させて重い石を抱かせる“石抱の刑”などがよく知られており、女囚刑罰ものが映画のジャンルとして確立しています。

ジェイミー:それは歴史的観点からも非常に興味深いね。日本のファンのみんなも、SNSなど経由で教えて欲しいね。

●そういった拷問・刑罰の方法はどのように情報を入手するのでしょうか?

ジェイミー:主に本を読んでいる。我が家にはいろんな関連書があって、ちょっとしたライブラリみたいなんだ。書店や古書店、大学の図書館にも足繁く通っているし、通販やネットオークションも利用している。よく知人やファンに「オススメの本は?」と訊かれるんだけど、大抵の人は時代背景などに興味がなく、グロい絵や写真を見たいだけなんだよね。自分が好きな本を薦めても、文字ばかりで600ページだとガッカリした表情を浮かべるんだ(苦笑)。

●文字ばかりで600ページあるオススメの本を教えて下さい。

ジェイミー:Chris Wickham著『Framing The Early Middle Ages: Europe And The Mediterranean, 400-800』はオススメだよ。中世初期ヨーロッパを社会経済学的視点から論じているんだ。あとスペイン異端審問についての本にも良いものがあるけど、『スペイン異端審問』というタイトルの本だけで20冊ぐらいあるし、どの本だったか忘れてしまった。あと『ある首切り役人の日記』も面白かった。

●フランツ・シュミットの『ある首切り役人の日記』は邦訳も出ています。非常に興味深く読みました。

ジェイミー:素晴らしい!あの本には16世紀当時のスラングが載っているのが興味深かった。“落ち葉”は葉っぱが木からぶら下がっているから絞首刑の意味だったりね。自分が当時を生きている気分になるよ。それを元ネタにして新作には「Fall Of The Leaf」という曲があるんだ。

●新作の「Diabolical Edict」で描かれているユルバン・グランディエは17世紀のカトリック司祭で、魔女裁判で有罪とされて火あぶりになりました。彼はケン・ラッセル監督の映画『肉体の悪魔』(1971)でもよく知られています。「Virgin Of Nuremberg」のイントロでは『ヘルレイザー2』(1988)からの音声が使われるなど、ブロデキンの音楽は映画の世界とも繋がっています。バンドの音楽のファンだったら見ておくべき映画はありますか?

ジェイミー:『ブレイブハート』(1995)はドギツイ描写を見ながら歴史を学ぶことが出来るし、『パッション』(2004)ほどリアルな鞭打ち描写は見たことがない。

●1960年代から1970年代には魔女狩りや異端審問を題材にした映画が多く作られましたね。『ウィッチファインダー・ジェネラル』(1968)『残酷!女刑罰史』(1970)、“ニュールンベルクの処女”を原題に冠した『顔のない殺人鬼』(1963)などがありましたが、それらから感銘は受けましたか?

ジェイミー:もちろんそれらの映画は見たし好きだけど、時代の背景にはあまり踏み込んでいないと思う。より深く知ろうとするならば、やはり優れた本を読むべきだよ。映画で好きなのはサイレント版の『ジャンヌ・ダルク』(1900)なんだ。情報量は多くないけど、ハッとする鮮度があって、後世のどのジャンヌ・ダルク物より素晴らしいよ。

Brennan Shackelford / photo by Israel Mendoza
Brennan Shackelford / photo by Israel Mendoza

<ブロデキンで長いあいだやってきて、日本行きは究極のゴールのひとつ>

●ポルトガルの画家ジョゼ・デ・ブリトーの絵画「Mártir do Fanatismo」(1895)を使ったアートワークについて教えて下さい。 

ジェイミー:オリジナルの油絵を気に入っていたけど、ジャケットのためにトリミングして、少しダークに色調を調整したりした。モデルの女性を待ち受けている運命が、アルバム全体のムードと共通していると感じたんだ。もちろんキリストの磔刑を連想させる部分もある。異端審問官が描かれているけど、彼ですら背中を向けてしまう運命が彼女を待ち受けているんだ。幸運なことにリスボンのシアード国立現代美術館が使用許可を出してくれた。出典をクレジットすればいいってね。とてもクールな対応をしてくれた。100年以上前の絵画だし、もしかしたら権利が消滅しているかも知れないけど、スジを通して連絡して良かったよ。作者にはきちんと敬意を表したいんだ。『Instruments Of Torture』のジャケットのようにあまりに昔の絵画だから作者も不明で、権利の所在が判らないこともあるけどね。

●美術館の人々はブロデキンの音楽を聴いたでしょうか?

ジェイミー:どうだろうな(笑)。俺たちからCDを送ったりはしなかったけど、ネットで検索すればすぐ出てくるし、「問い合わせがあったけど、誰だこいつらは?」って聴いたんじゃないかな?とにかく適切な使い方をすることは認めてもらったし、とてもハッピーだよ。

マイク:俺たちのアルバム・ジャケットはどれも元の絵画の意図を歪めたりせず、アルバムのテーマのひとつとして尊重している。もしジョゼ・デ・ブリトーが『Harbinger Of Woe』を聴いたらどう思うか想像もつかないけどね。怒らないでくれることを祈るよ(笑)。

●過去作のアートワークでも油彩画や版画を使っていますが、美術作品はいつもチェックしていますか?

ジェイミー:うん、決して「次のアルバムでジャケットに使おう」とかいうんじゃなくて、純粋に好きなんだ。本にはいくつも付箋を貼っているし、コンピュータには膨大な数の画像を保存してあるよ。ただ『Harbinger Of Woe』の場合、第2候補や第3候補はなかった。これしかない!と確信したんだ。

マイク:ブロデキンのレンズを通して見ることはある。この絵画は俺たちの世界観と一致するか?とかね。でも基本的には自分が好きだから見ているよ。

●2024年3月の『Harbinger Of Woe』発売以降の活動予定を教えて下さい。

ジェイミー:5月の“メリーランド・デスフェスト”(23〜26日/ボルティモア)は決まっているけど、ツアーなどは決まっていない。ヨーロッパの夏フェスからも声がかかっているし、これからプロモーターと話すところだよ。ギャラのこと、経費の高騰などの問題があるけど、何とかしたいね。ずっと日本に行きたいと話し合ってきたんだ。ブロデキンで長いあいだやってきて、究極のゴールのひとつだよ。何年か前、プライベートで日本を旅行しようと考えていたけど、都合が合わなくてね。

ブレナン:日本の音楽も好きなんだ。DISCONFORMITYとかカシオペアとか...。

マイク:MASONNA、MERZBOW、VOMIT REMNANTSなども素晴らしいアーティストだよ。

ジェイミー:日本文化では浮世絵も好きなんだ。クニヨシ(歌川国芳)、ヨシトシ(月岡芳年)とかね。サムライ・カルチャーに魅力をおぼえるよ。

【バンド公式サイト】
https://brodequinofficial.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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