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富士山災害の一つ「スラッシュ雪崩」ってどんな現象?

 水を含んだ雪が土砂を巻き込んで流れ下る現象「スラッシュ雪崩」。あまり聞きなれない現象ですが、富士山麓では度々甚大な被害をもたらしてきました。4月9日朝に発生した富士山大沢崩れでの雪崩では、下流の砂防施設で土砂が止まり被害は確認されませんでしたが、2018年には別の場所で発生した雪崩により2人の死者が出ました。古来より「雪代(ゆきしろ)」と呼ばれ、恐れられてきたスラッシュ雪崩を1ページにまとめます。

「スラッシュ雪崩」発生 昨夜からの大雨影響か【動画あり】

 富士山西側上部の大沢崩れで9日朝、水を含んだ雪が土砂を巻き込んで流れ下る現象「スラッシュ雪崩」が発生した。国土交通省富士砂防事務所(富士宮市)によると、土砂は下流の砂防施設で止まり、被害は確認されていない。

スラッシュ雪崩の土砂が堆積した砂防施設=9日午後0時10分ごろ、富士宮市北山(富士砂防事務所提供)
スラッシュ雪崩の土砂が堆積した砂防施設=9日午後0時10分ごろ、富士宮市北山(富士砂防事務所提供)
 午前8時20分ごろ、大沢崩れ源頭部の標高約2100メートル地点にあるカメラが土石流を捉えた。その後、断続的に流下が発生し、同12時ごろまでに落ち着いた。土砂は同市上井出の大沢川遊砂地(標高約700メートル)で止まり、以下は水が流れている。
 スラッシュ雪崩は、雨に加えて気温の上昇に伴う融雪で山肌の流量が増えたことが原因で発生するとされる。富士山では昨晩から雨が降っていて、雪崩の最寄りの大滝観測点では午前9時ごろ、1時間28ミリの強い雨が観測された。同事務所によると、今回の雪崩の規模は比較的大きめの可能性がある。監視を続け、流出量を調べる。
〈2024.04.10 あなたの静岡新聞〉

動 画

  • 2024年・富士山スラッシュ雪崩

【富士山西側】年間15万立方メートル 2021年には最大規模47万立方メートル

※2021年4月1日 静岡新聞朝刊

監視カメラが捉えた土石流の様子=21日午後、富士山の標高900メートル付近(富士砂防事務所提供)
監視カメラが捉えた土石流の様子=21日午後、富士山の標高900メートル付近(富士砂防事務所提供)
 国土交通省富士砂防事務所は31日、富士山大沢崩れ周辺で21日に発生したスラッシュ雪崩に伴う土石流について、大沢川遊砂地への流出量が約47万立方メートルだったと発表した。大沢川遊砂地を設置した昭和50年代以降、1回の降雨による土砂流出量としては過去最大規模という。
 同事務所が31日までに実施したドローンの計測調査で遊砂地への流出量が判明した。大沢川では年間約15万立方メートルの土砂が流出しているが、2018年3月以降は目立ったスラッシュ雪崩の観測がなかった。崩れてたまっていた土砂が今回のスラッシュ雪崩でまとまって流れた可能性があるとみられる。
 スラッシュ雪崩は水を含んだ雪が土砂を巻き込んで流れる現象。21日の降雨や気温上昇の影響で、複数回発生したとされる。

【富士山東側】過去には死亡事故も

※2018年3月7日 静岡新聞朝刊 作業中の男性2人死亡 小山町・東富士演習場

流れ込んだ土砂で道路が埋没した県道150号線=2018年3月、小山町須走
流れ込んだ土砂で道路が埋没した県道150号線=2018年3月、小山町須走
 小山町の東富士演習場周辺では6日、富士山周辺に降った大雨の影響による被害が明らかになった。演習場内で男性2人が死亡した事故は水を含んだ雪が土砂を巻き込んで流れ下る「スラッシュ雪崩」に起因するとみられる。近くを通る県道150号(ふじあざみライン)も流れ込んだ土砂で覆われた。国土交通省富士砂防事務所(富士宮市)は富士山の大沢崩れでスラッシュ雪崩を観測している。
 東富士演習場内で死亡した2人は、海苔川調節池内の流入口付近で土砂の上に倒れていたことが6日、同駐屯地などへの取材で分かった。同駐屯地や御殿場署は大雨や土石流の影響があるとみて死亡の経緯を調べている。
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 駐屯地などによると調節池の大きさは東西100メートル、南北200メートル。2人は作業服とみられる服を身に着けていた。流入口側は流れ込んだとみられる土砂がたまり、その反対側は泥水だったという。
 死亡したのは72歳と68歳の男性で、街並みを再現した「市街地訓練場」の施設維持管理に当たっていた。5日は建物の修繕作業を行い、午後4時10分ごろに車で帰路に就いた後、行方が分からなくなった。午後10時ごろ調節池で発見され、死亡が確認された。
 2人が乗っていた車は発見されておらず、同署は7日以降車の捜索に当たる。

閉山中の富士山 山岳関係者、安易な入山に警鐘

※2017年3月29日 静岡新聞朝刊

水分を含んだ重い雪が幅100メートルにわたって崩れた大規模雪崩の現場=2014年5月、富士山東麓の標高2400メートル付近(御殿場署提供)
水分を含んだ重い雪が幅100メートルにわたって崩れた大規模雪崩の現場=2014年5月、富士山東麓の標高2400メートル付近(御殿場署提供)
 栃木県那須町で高校生らが巻き込まれた雪崩(2017年3月発生)を受け、静岡県内の山岳関係者は28日、閉山期の富士山に登山者やスキー・スノーボード愛好家らが入山している実態を踏まえ、雪崩への警戒感を強めた。春の富士山では大量の水分を含んだ雪が凍った地表上を流れるスラッシュ雪崩に注意が必要で、関係者は安易な入山に警鐘を鳴らす。
 国土交通省富士砂防事務所によると、スラッシュ雪崩は大沢崩れだけでも4月から5月にかけて毎年1、2回発生している。雪崩は流れ下りながら土砂を巻き込み、猛烈な土石流になる。
 今年の富士山の積雪は例年並みで、春先から気温の上昇と降雨が重なると雪崩の危険性が高まる。同事務所の鈴木豊事業対策官(57)は「富士山特有の現象を知ってほしい。大沢崩れだけでなく、山腹の沢のどこでも発生する可能性がある」と注意を呼び掛ける。
 閉山中の富士山入山には規制があるが、登山ブームで雪山の経験を積もうとする40~50代は増加傾向で、5月の連休中にはスキー・スノーボード愛好家らの姿も目立つという。
 富士山の最多登頂記録を持つ登山家実川欣伸さん(73)=沼津市=は「(雪崩に遭った)栃木の講習会責任者には油断があった」と指摘した上で、閉山中の富士山入山者にも「少しの隙が命に関わる。危険性を認識してほしい」と警告する。

メモ  富士山で過去に発生した雪崩としては、1972年3月には御殿場口付近で複数パーティーの24人が疲労凍死や雪崩による圧死などで亡くなる大量遭難事故があった。2007年3月の雪崩は富士宮口新5合目の建物を破壊し、雪と土砂は富士山スカイラインまで及んだ。2014年5月にも富士山東麓の中腹で大規模雪崩があった。
地域再生大賞