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吸入指導に思わぬ伏兵(2)
サルコペニアで適確な吸入操作ができなくなる

2018/04/19

 昨年12月に、本邦初のサルコペニアの診療ガイドライン「サルコペニア診療ガイドライン2017年版」が発刊されました。サルコペニアとは、Rosenbergらが1989年に米国栄養学会雑誌にて、「加齢による筋肉量の減少」を、ギリシャ語のsarx=筋肉、penia=減少から造語命名したものです。(1)筋肉量の減少に、(2)筋力の低下か、(3)身体能力の低下のいずれか片方があれば、診断基準を満たすことになります。

 長期間の喫煙習慣で全身性炎症を生じるCOPDでは様々な疾患が併存しますが、その1つにサルコペニアがあります。COPDは病期が進むと“痩せ”が目立つようになり、いわゆるサルコペニア状態となります。COPDとサルコペニアの併存率は約14.5%と報告されています。

 骨格筋には、遅い速度で収縮し小さな力を持続的に発揮するI型筋繊維(遅筋繊維、ミオグロビンを多く含むため赤く見える赤筋)と、嫌気的に素早い収縮で瞬発力を発揮するII型筋繊維(速筋繊維、ミオグロビンやチトクロームが比較的少なく,白く見える白筋)との2種類ありますが、COPD患者では、I型筋繊維が減少し、II型筋繊維の増加が見られます。赤い筋肉が減って相対的に白い筋肉が増える。すなわち、長時間持続力を維持する筋肉が減り、いわゆるスタミナが無くなってくることになります。サルコペニアが進むCOPD患者さんでは、持続力が必要な日常生活動作ができなくなり、身体活動性の低下に直結しています。

 サルコペニアは単なる併存症にとどまらず、COPD治療の主軸となる吸入療法に悪影響を及ぼしている例をしばしば経験します。

 サルコペニアの進行で握力が低下し、デバイスを押したり回転させるなどに必要な手指筋力も低下し、吸入手技操作が正しくできなくなってしまう患者さんや、呼吸筋や横隔膜を使って薬剤を吸入する力が弱くなる患者さんがいます(写真1、2)。

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著者プロフィール

大林浩幸(東濃中央クリニック〔岐阜県瑞浪市〕院長)●おおばやし ひろゆき氏。日本呼吸器学会「COPD診断と治療のためのガイドライン(第4版)、(第5版)」査読委員、日本アレルギー学会「喘息予防・管理ガイドライン(JGL2009、JGL2012、JGL2015、JGL2018)」作成委員。藤田医科大学医学部客員教授、島根大臨床教授。吸入療法アカデミー代表理事。

連載の紹介

プライマリケア医のための喘息・COPD入門
「吸入薬を処方したのに症状が改善しない」という患者さんの多くは、正しい診断に基づいた適切な治療を施すと、とても良くなります。喘息・慢性閉塞性肺疾患(COPD)の診療において、みなさんが陥りやすいピットホールと、的確な診療のポイントをわかりやすく解説します。
この連載を書籍化しました!
『喘息・COPD吸入療法の患者指導に必携!
メカニズムから見る吸入デバイスのピットホール』好評発売中

 このたび、この連載「プライマリケア医のための喘息・COPD入門」を書籍化いたしました。
 2013年6月から開始したこの連載は、気管支喘息やCOPD診療の主役となった吸入デバイスによる吸入療法を指導する上で必要な情報、患者が陥りやすい操作ミスを、具体例とともに紹介しています。
 書籍では、現在利用可能な11の吸入デバイスごとに、合計300枚を超える写真をふんだんに使いながら、患者が陥りやすいピットホール(誤操作)を大林浩幸氏が書き下ろしています。さらに本書では、吸入デバイスの内部メカニズムも解説。デバイスのメカニズムを知り、操作ミスが発生する母地を把握しておくことで、患者の操作ミスを発見しやすくなり、ミスを起こしやすい操作を重点的に指導することも可能になります。
 ぜひ、日々の患者指導にご活用ください。(大林浩幸著、日経BP社、4500円+税)

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