待っていたのは満天の星。大雪山・黒岳石室【帰ってきた避難小屋】

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イラストレーターで登山ガイドの橋尾歌子さんが全国の避難小屋を訪問し、イラストで紹介する書籍『帰ってきた避難小屋』から、大雪山の100年の歴史をもつ山小屋・黒岳石室をご紹介。

イラスト・文・写真=橋尾歌子

4月末、北海道在住の山岳ガイド、菊池泰子さんから、この夏大雪山(たいせつざん)に来ない?と連絡があった。以前、北海道の山に行きたいと話したことを覚えていてくれたのだ。

ロープウェイ、リフトがあるので、夏の大雪山黒岳(くろだけ)は人気の日帰り登山コース。また旭岳(あさひだけ)方面やトムラウシまでの縦走コース上でも、黒岳石室(くろだけいしむろ)は重要な拠点だ。避難小屋ではあるが、シーズン中は管理人が常駐し、飲み物や物品の販売もある。

かつてこの場所に、狩猟のための小屋があったという説があるが、記録はない。1923(大正12)年、北海道山岳会の結成を機に、帝室林野局(のちに林野庁に統一)と北海道庁が合同で、層雲峡温泉(そううんきょうおんせん)〜黒岳、旭岳経由松山温泉(現天人峡温泉〈てんにんきょうおんせん〉)の横断路を開削し、黒岳石室と旭岳石室を建設した。

宿泊費は1泊毛布付きで50銭。当初の小屋は石室部分のみであったが、その後、改修と管理棟部分や別館の増設などを繰り返し、現在の姿になった。

石室建設以降の登山者の増加で、トイレ問題には試行錯誤を繰り返したが、現在のバイオトイレは2003年9月に完成し、04年から使用開始された。

小屋と登山道の管理は、上川町からの委託を受け、ロープウェイを運営するりんゆう観光が行なっている。

札幌で、泰子さんと、カメラマンのニキータこと二木亜矢子さんと合流。かっちょいい写真で、来年の『ワンダーフォーゲル』の取材にしよう!という作戦だ。元関西人のニキータは、北海道に魅せられ、移住してきたそうだ。

ロープウェイとリフトを乗り継ぎ七合目登山口へ。歩き始めると、周辺には早くも高山植物が咲き乱れる。自衛隊の団体やたくさんの登山者に会った。

ロープウェイとリフトを乗りついだ七合目登山口から登り始める。登っていくと「まねき岩」が。泰子さん「ちなみに画伯(私のこと)、登っちゃだめやからね」と。あたりは花が咲き乱れていて、登山者もいっぱい

進んでいけば、ところどころに雪渓が残り、やがて目の前に特徴的な岩峰が見える。「あれ、まねき岩だよ」と教わった。一休みして周囲を見回すと、人工物がまったく見えない、山また山の世界が広がる。わずか1時間ほどでこんなに山深いところに来てしまった。

黒岳の山頂から、西側の北鎮岳(ほくちんだけ)には白鳥の姿をした雪形が見られるとか。雲が切れるのを待つと、やがて目の前にゆったりとした山々が広がった。「裾野が広くて雄大で、私は大好きだなぁ」と泰子さん。スキーが得意な泰子さんとニキータは、滑ると気持ちよさそうな斜面を見つけて盛り上がる。

山頂から少し下り小屋に着く。小屋には2人の管理人さんがいて、満天の星の下、星の観察会をしてくれた。

黒岳の山頂から黒岳石室へ。西側にある北鎮岳には白鳥の形の雪形が見られるとか(どれ?)
黒岳石室に到着。登山者が続々と到着した。夏季は管理人さんが常駐していて、飲み物やTシャツなんかも買うことができる
この日私たちは小屋には泊まらず、テント泊。なぜって?「ここのテン場、星空を見ながら寝れるのがいいんよ〜」と泰子さんが言ったから。そう、すごかった! この日の晩ごはんはがっつり焼肉定食。「うまそ〜」ってニキータが写真撮ってる
翌朝からめざせトムラウシまで。中央の王冠みたいな形のがそれ。この日の行程はその左のぼこっと落ちてる忠別岳あたりまで。遠いな〜

MEMORIES

この時のことは、『ワンダーフォーゲル』(2020年4月号)にルポ掲載! その後行った、滋賀県の綿向山五合目小屋のお話を「綿向山を愛する会」の横山さんに聞くと、「記事見ましたよ」。そして深~いところでつながっとった!

 

黒岳石室DATA

所在地 北海道・大雪山北部、黒岳(1984m)山頂から西に750mの鞍部(1890m)。層雲峡からロープウェイとリフトを乗り継ぎ、七合目登山口から黒岳山頂経由で2時間
収容人数 100人
管理 6月下旬~9月下旬は管理人常駐。素泊まり2000円。テント泊500円。期間外無料
水場 天水をもらえる(要煮沸)
トイレ 別棟にあり。協力金500円を支払う
取材日 2019年7月8~11日
問合せ先 層雲峡・黒岳ロープウェイ
TEL:01658-5-3031
ヤマタイムで周辺の地図を見る

帰ってきた避難小屋

避難小屋とは、悪天候などの非常時に避難・休憩・宿泊するための山小屋。 営業山小屋のように管理人がいない場合もあり、個性的な小屋が多い。 写真や図面と違い、小屋の雰囲気まで伝わる著者独自のカラーイラストで描かれた間取り図は前作『それいけ避難小屋』から健在。 本作は北海道から九州までに収録エリアがパワーアップ。 41軒全て実踏調査した、いまだかつてない「避難小屋イラスト図鑑」第2弾!

■収録する避難小屋
黒岳石室/白雲岳避難小屋/忠別岳避難小屋/十勝岳避難小屋/上ホロカメットク山避難小屋/万計山荘/大深山荘/八瀬森山荘/岩手山八合目避難小屋/不動平避難小屋/田代山避難小屋/坊主沼避難小屋/峰の茶屋跡避難小屋/那須岳避難小屋/古峰ヶ原高原ヒュッテ/賽の河原避難小屋/小丸避難小屋/御前山避難小屋/湯の沢峠避難小屋/黍殻避難小屋/加入道避難小屋/犬越路避難小屋/菰釣避難小屋/金城山避難小屋/ドンデン避難小屋/須津山荘/霧訪山避難小屋/二の谷避難小屋/池田山避難小屋/津屋避難小屋/奥千町避難小屋/枯松平休憩所/檜尾避難小屋/安平路小屋/南木曽岳避難小屋/池ヶ谷避難小屋/綿向山五合目小屋/経ヶ峰休養施設/扇ノ山避難小屋/出雲峠避難小屋/避難小屋うまみ

橋尾歌子
発行 山と溪谷社
価格 1,760円(税込)
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この記事に登場する山

北海道 / 石狩山地

大雪山・黒岳 標高 1,984m

 大雪山の北東の隅に位置し、層雲峡から仰ぐ姿は、右に岩壁を抱えた急峻なものだ。火山性の大雪山のなかでは珍しく頂上まで緑が濃く、黒岳の名称も、この深い緑に由来する。  層雲峡からロープウェイとリフトを乗り継いで8合目に達し、花が美しい急な登山道をたどって、わずか1時間ほどで頂上。南面には広々とした風景が広がっている。  ここで引き返す人も多いが、頂上を越えて十数分の黒岳石室まで行ってみよう。夢のように美しい花の道だ。一時はほとんど消滅したがレンジャーの手で、みごとに復元した。  冬は、黒岳の北斜面は、道内有数のスキーゲレンデと化す。黒々とそびえる針葉樹林に囲まれたよい斜面だが、頂上へ行くにはアイゼンが必要。  冬の初登頂は大正11年(1922)3月、旭岳とほぼ同メンバーによる。

プロフィール

橋尾歌子

イラストレーター、登山ガイド。多摩美術大学大学院修了。(有)アルパインガイド長谷川事務所勤務、(社)日本アルパイン・ガイド協会勤務を経てフリーに。2004年、パチュンハム(6529m)・ギャンゾンカン(6123m)連続初登頂。(公社)日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅢ。UIMLA国際登山リーダー。バーバリアンクラブ所属。

こんな山小屋で一息ついてみたい。“避難小屋”への誘い

悪天候などの非常時に避難・休憩・宿泊するための山小屋が避難小屋(無人小屋)。日本各地の山に、300軒近くあるといわれている避難小屋の中から、個性的な小屋をピックアップして登山ガイドでイラストレーターの橋尾歌子さんが実踏調査。書籍『それいけ避難小屋』『帰ってきた避難小屋』から、カラーイラストとルポで避難小屋の魅力を紹介する。

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