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いじめている君へ

友達傷つけず、世界広げて

作曲家・千住明さん

千住明さん
 この文章を読もうとしている君は、本当の「いじめっこ」ではありません。だれかをいじめ続けても何も感じない本当の「いじめっこ」は、とても鈍感(どんかん)で、これを読んだり、あらためていじめのことを考えたりなど、するはずがありません。

 実は、いじめる側に立つ人たちのほとんどは、君のような人たちです。いじめで、友達が深く傷つくことに気がついているけれど、鈍感なふりをして生きている人たちです。

 ぼく自身も、中学のとき、いじめる側にいたことがあります。だれをいじめるかをリーダー格の仲間が決め、無視をする。持ち物をかくす。やめれば、こんどは自分がいじめられますから、リーダーの機嫌(きげん)をとって、やめようと言えませんでした。

 いじめられたのは個性のある人たちばかりです。静かであっても、どこか秘めたパワーを感じさせる人もいました。もし友達になれていたら、その交流を通じて、自分が知らない、別の世界にふれていたでしょう。

 いまは立派な仕事をして、それぞれの分野で輝いている人がたくさんいます。でもクラス会で会っても、ぼくは話しかける勇気がありません。いじめられた経験もあるので、よく知っているんです。いじめられた側は、いじめた側を、よく観察(かんさつ)していて、けっして忘れないということを。

 いじめる側といじめられる側の真ん中あたりにいる君たちには、大きな可能性があります。もし君たちのうちの何人かが強い気持ちを持つことができれば、いじめを食い止める大きな力になれる。そうして得られた友達は、きっと君の世界をもっと大きく広げてくれるはずです。

(朝日新聞2006年11月25日掲載)

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