龍をのむ 詩人 四元康祐
三四年ぶりに日本に居を戻して、三ケ月が経とうとしている。新しい暮らしに慣れるにつれて、ヨーロッパのことを思い出す頻度も増してゆく。懐かしがる訳ではない。変哲もない街角の光景が、稲妻のように前触れもなく現れて、眼前の日本に重なるだけだ。
マックス・ウェーバー広場からイザール川畔へ降りてゆく坂の小道。市民プール(フォルクスバード)の壁を覆う派手な落書き。その下の雑草の、まだらな生え具合……。そこに人...
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