裁量労働制“法案削除”から3年。対象拡大を画策する勢力から漂う嫌なニオイ

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2018年、厚労省のデータ不備が明るみになり、働き方改革関連法案から全面削除された裁量労働制の対象拡大ですが、今月26日、同省が再びその議論を開始したことがメディアで伝えられています。推進派は「裁量労働制の拡大が労働生産性を高める鍵」と声高に主張しますが、果たしてそれは真実なのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、実態調査で明らかになった裁量労働制のネガティブデータを紹介。その上で、企業サイドに存在する現在の生産性の低さの根本原因を明らかにしています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

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裁量労働制の対象業務を「拡大したい勢力」から漂う“嫌な”匂い

厚労省は26日、裁量労働制を巡る有識者検討会の初会合を開き、対象業務の拡大や運用改善の議論をはじめました。

裁量労働制は「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」とは異なり、労働基準法がすべて適応されるため、労働時間はあらかじめ決められたみなし残業を含み、深夜手当などの割増賃金が発生します。

裁量労働制をめぐっては3年前に成立した働き方改革関連法で当初、対象業務の拡大が盛り込まれましたが、厚生労働省の調査に多くの不備が見つかり法案から削除。そこで「どうにかして拡大したい勢力」が再び動き始めたわけです。

先月、厚労省は「裁量労働制の実態に関する調査の結果」を公表したのでその結果を“エビデンス”に、「だってほら、こんなにみんな拡大してほしい、運用を簡単にして欲しいっていってるじゃん!」という思惑だと、個人的にはとらえています。

もし、件の検討会で実態調査で浮かび上がった「ネガティブデータ」についても、しっかりと議論し実効性のある政策・制度に改善するというなら、検討を進めることは大賛成です。

しかし、非正規雇用を拡大させていったときに、「だって自分から積極的に非正規になった人は多い」と、非正規雇用の問題点を置き去りし、挙げ句の果てに、非正規という言葉が持つイメージの悪さから「言葉狩り」にいたったのです。

忘れちゃった方も多いかもしれませんが、2019年4月に厚労省内に「非正規と呼ぶな!」と指示したメールが出回りました。雇用環境・均等局の担当者名で省内の全部局に送られたもので、国会答弁などでは「パートタイム労働者」「有期雇用労働者」「派遣労働者」などの呼称を使うことを指示。「非正規」という言葉が象徴する低賃金や格差問題から目を逸らすために、「非正規」のみや「非正規労働者」という言葉は用いないよう注意を促したのです。

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