日経アーキテクチュアの最新号に掲載した建築物をピックアップ。今号の1枚は、吉田誠さんが撮影した「富山県美術館」です。「建築プロジェクトデータベース」(ウェブ有料会員サービス)では、雑誌の発行と連動して最新の建築情報を更新。概要データや写真・図面などを見ることができます。

環水公園に面した高さ11mのホワイエ。手すりはアルミの鋳物製。天井材はアルミを1円玉のような質感に仕上げたもの。外部の光環境を映して微妙に表情を変える(写真:吉田 誠)
環水公園に面した高さ11mのホワイエ。手すりはアルミの鋳物製。天井材はアルミを1円玉のような質感に仕上げたもの。外部の光環境を映して微妙に表情を変える(写真:吉田 誠)
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(日経アーキテクチュア10月12日号フォーカス建築から)

 2017年3月末のプレオープンからの5カ月間に富山県美術館を訪れた人は約57万人。8月26日の全面オープン後もその勢いは衰えず、10日あまりで約6万人を数えた。

 富山県が整備してきた富山県美術館は、耐震性や消火設備などに問題が生じていた1981年完成の旧富山県立近代美術館を、移転して新築したもの。これを機に、「近代」を外すなど、名称も改めた。

 移転先は、富山駅から北西に1㎞あまり。20年ほど前、明治期の運河を再整備してつくられた富山県富岩運河環水(かんすい)公園の西側に位置する。約10haの環水公園は、年間140万人が利用する人気スポットだ。

 「場所の力を生かし、環水公園と一体的な美術館として運営したいと考え、プロポーザルで設計者を選定した」。富山県美術館の雪山行二館長がそう話すように、完成した地上3階建ての美術館は、南東の環水公園に全面ガラス張りのファサードを向けて立つ。

 ガラスのカーテンウオールに包まれたその内部は、高さ11mの開放的なホワイエになっている。そこからは眼下に環水公園を見渡し、遠く向こうの正面に、富山の象徴でもある立山連峰を望む。

 「環水公園をリスペクトする意味で、公園全体を受け止めるような放物線を引き、それに抱かれるような楕円を描いた。さらに、楕円の公園側を、立山連峰に平行する線で切ることでできた形を基本に設計を進めていった」。13年に富山県が実施したプロポーザルで設計者に選ばれた内藤廣建築設計事務所(東京都千代田区)の内藤廣代表はそう説明する。

 公園との一体感を意図した館内には、誰でも自由に入り、1階から屋上まで散策できる。エントランスのある1階は、天井高を2.5mに低く抑えた空間で、ショップやギャラリーなどがコンパクトに収まる。河川が近い敷地の水害リスクを考慮して、展示室や収蔵庫、機械室などは2階以上に設けた。その2階に上がると、一面のガラス越しに公園や立山連峰を一望する2層吹き抜けのホワイエに出る。

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